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『若おかみは小学生』ネタバレ感想 徹底した明るさで描かれる命の物語

どうやら話題作らしいとのことで全くのノーマーくだったアニメ映画『若おかみは小学生』を見たのです。

 

本作は公開直後動員ランキング10位圏外ということもあり、各地の劇場では早くも上映回数が大幅に減少しています。

しかし、SNS上では賞賛の口コミが相次ぎ都心部では逆に上映回数が増えるという現象も発生…。

 

 

私も口コミを元に鑑賞しましたが、これが本当に凄まじい作品でした。

一見すると子ども向けのドラマ映画に見えるでしょう。しかし、内包されているテーマはあまりにもハード且つ普遍的なものだったのです…。

こんな衝撃は久々でした。とてつもない力を見せつけられてしまいました。

 

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作品紹介・あらすじ

原作は講談社青い鳥文庫の人気シリーズ。累計発行部数は300万部を突破。

 

事故で両親を亡くした小学生の少女「おっこ(関織子)」が祖母の元に引き取られ経営する旅館で若おかみを目指す。

旅館に居座る幽霊のウリ坊やライバル旅館の令嬢真月とぶつかり助け合いながら成長していく姿を描く。

 

アニメ映画に先駆けてテレビアニメが放送。(全24話)

映画版はテレビ版とは異なるオリジナルの展開を描く。

 

あまりにも明るく、だがテーマは重い

テレビシリーズは未見。原作も知らない。前知識はポスターぐらい。

しかし肝心のポスターには幽霊がいる、フリフリのドレスを着た旅館に不釣り合いな少女が写っている…。これらの要素から見るとコメディアニメかと思うでしょう。

 

そんな作品がなぜ高評価なのか?まったく知識がない無垢な状態で鑑賞したところ、やられてしまいました。

予想と全く違う。ふたを開けてみるとこの作品はとんでもないテーマを持っていたのです。

 

 

小学生のおっこがおかみ業を通して成長していく物語で、働くこと人と触れ合うことの素晴らしさを説いているのですが、作品の根底には命と言う重いテーマが存在しています。

 

冒頭からおっこの両親が事故死するハードな展開が描かれ祖母の旅館に引き取られそこで幽霊と遭遇。物語は生者と死者を対比して進行していきます。

 

事故のシーンはかなりリアルで、子ども向け作品とは思えないほど。

その場面で「この作品はただ者ではない…」と実感させられました。

 

旅館で若おかみ修行を始めたおっこは様々な旅行客を通じ人の多様性を学んでゆく。そして旅館の哲学である「誰でも受け入れ癒す」の意味を理解していくのです。

 

純粋な労働への賛歌を描きつつも人の持つ様々な側面を描く。

妻を亡くした親子や事故で内臓を摘出した男性の家族など何かを失ってしまった旅行客を登場させ、生者と死者の思いの両側面を描いています。

 

何よりも衝撃的なのは終盤に訪れる”死”との向き合い方。

両親の死が受け入れられないおっこの目の前に死とどう向き合うか迫られる場面が訪れるのです。

 

小学生の少女が死と向き合い、そしてそれを受け入れる。

奇跡は起こらない。ファンタジックな要素もない。ただ純粋に現実的に死と向き合う場面が描かれるのです。

死を受け入れることで両親が改めていなくなったことを理解し、それでも生きていくという強い決意が描かれます。

 

子ども向け作品なのにあまりにも重い。

全編で命をテーマにしています。単純な成長物語ではありません。命を単純なテーマに扱った作品でもないのです。

 

生きることのすばらしさ、死との向き合い方。それを一度に描くというとんでもない作品なのです。

 

しかし、命を扱った作品にありがちな”暗さ”は全く感じません。

終始明るく、時には笑えてしまう場面も出てくるほどの快活な雰囲気に包まれています。

命と言う暗い影が差しそうなテーマを扱っているのに、作品は最初から最後まで異様なまでに明るい。陽が刺しこんでいるかのようです。

 

作品が陽気な雰囲気だからこそ、命のテーマが際立つのでしょう。コントラストの使い方が本当に上手いんですよね。

 

気づけば自然と涙が流れてしまい、多幸感に満ちたまま鑑賞を終えることが出来ます。

 

本当に「見てよかった」と心の底から喜べる作品なのです。

 

口コミが良いのも理解できます。

 

早く、早く観に行ってほしいです。地方では既に上映回数が激減しています。希望の上映時間に鑑賞することが難しい状況です。だからこそ早く見てほしいです。

 

大ヒットになることを願いたくなる素晴らしい作品です。