『スパイダーマン:スパイダーバース』感想 これはもはや映像革命を超え芸術となった
まさかのアカデミー賞長編アニメーション部門を受賞した『スパイダーマン:スパイダーバース』を遅れながらに鑑賞。
ため息がでるほどの美しい映像表現の脚本の上手さ。
なるほど、快挙を成し遂げる理由も分かる内容だった。
様々な世界のスパイダーマンが集合する。そんなコミックが登場し日本でも話題になった。
東映版スパイダーマンも登場したのみならず、レオパルドンまで登場してしまいファンの度肝を抜いたのが『スパイダーバース』だ。
今回はそれをベースにアニメーション映画化だが物語は原作コミックとは大きく異なる。
アメコミと言えばオールカラーの鮮やかな色彩が目を幸福へと誘う。
本作の映像は「アニメーション」であるにも関わらず、なぜだかコミックのコマを意識させられる演出がされている。
キャラクターや背景の色や陰影がコミックそのままを目指していることがひしひしと感じられる。
効果線や冷や汗の表現、挙句には吹き出しや擬音まで飛び出してくる始末だ。
コミックのノリをそのまま表現すると滑ってしまいお寒い演出になることもおおいが、これは違った。
彩な表現たちは恐ろしいまでに違和感なく溶け込んでいる。
コミックをそのまま映像化しようとする演出意図が見事に達成されているのだ。
コミックのような擬音も流れるように登場する。吹き出しやテロップもかなり多いが、それもコミック的に表現しているため作品世界を極彩色にしていた。
映画は見る物だが、この作品は時々読ませにくる。コミックを読んでいるかのように自然に文字が出てくるから、私も自然と読まされてしまう。
アニメーションだが読まされる矛盾はこの作品に限り不問にするしかない。全てが違和感なく作品世界に融和している。
他にも爆発や勢いの表現などもコミック的な色や線になっており、本当にコミックを見ている感覚になってしまう。
これは手描きアニメーションや実写では成しえない映像表現だろう。
CGならではの表現に溢れている。CGなのに平面的に見えるキャラクターも出てくるので、アメリカアニメーションの技術力が極めて高いことを改めて認識させられた。
コミックの映像化の観点から見ると、この作品は到達点を見せたと言えるだろう。
映像革命を超え芸術作品とも呼べる表現に満ちている。
そして物語も一級品だ。
スパイダーマンのオリジンを描きつつも、別世界から来たピーターとマイルズの「師匠と弟子」と成長、マイルズの親との愛、様々なスパイダーマンとの友情、そして運命への対峙と様々なテーマを盛り込んでいる。
黒人、白人、女性、日系人、豚と多様なスパイダーマンが存在しているように作品の骨幹となるテーマも多様性に溢れている。
その全てのテーマにしっかりと答えを示し、そのどれもが説教臭さがないのだから”凄い”意外の言葉が浮かばない状態に追い込まれた。
平行世界というややこしくなりそうな要素を利用しながらも、物語は病的なほど丁寧に作られており、製作陣の強い信念が見えてくる。
何度も見たスパイダーマンの物語。
しかし、このスパイダーマンは知っているようで知らない新しいスパイダーマンだ。
私たちがこれまで何度も目撃したスパイダーマンのように、スパイダーマンは決して一人だけではない事を改めて実感した。
温故知新を地で行く作品だろう。
スパイダーマンままだまだ可能性を秘めていることを示した。
この作品はあまりにも凄い。
映画をコミックにしてしまったのだから。