『SSSS.GRIDMAN』感想 ヒーローで革命を描いた作品
1993年に放送された『電光超人グリッドマン』をベースにアニメ化した『SSSS.GRIDMAN』が最終回を迎えました。
現代風にアレンジされ誰も予想できなかった人気を獲得。散りばめられた謎、青春の匂い溢れる空気、そして傷…。そのどれもが最高といえる要素ばかりでした。
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退屈から救ってくれた作品
オリジナルの特撮版『電光超人グリッドマン』は1993年でありながら、インターネット社会を先取りしコンピューターウイルスなど様々なデジタル要素を絡ませた先駆的な設定で話題となりました。
それ故に早すぎた作品と言われ、同じ円谷プロのウルトラシリーズのように後継作品が生まれることはありませんでした。これまでは知る人ぞ知る作品として地味に生き続けてきたわけです。
そんなグリッドマンがアニメで復活。誰も予想してかったアニメ化に元来のファンは驚愕。『SSSS.GRIDMAN』で蘇ったグリッドマンはその見事なストーリー展開、謎の孕み先の予想できない構成には多くの人々を退屈から救い夢中にさせたのです。
謎めいたキャラクターたち。新世紀中学の個性あふれるキャラと変身後のギャップ、第二のグリッドマンの登場など特撮ヒーローにお馴染みの要素を継承しつつもアニメ的な造型と演出でいつの間にかどのキャラも愛おしい存在になっていました。
アニメなのに特撮していると話題でしたが、瞳の色でキャラの立ち位置を現す、アンチくんの粗暴な食事の仕方、新世紀中学の特にボラーちゃんくんとマックスさんの造形は実写ではできなかった表現でしょう。
まさにアニメでしか成しえなかった表現に溢れながらも戦闘シーンはやはり特撮っぽい雰囲気を残す…。高度な技術でアニメファン、特撮ファンの両方を虜死してしまったのです。
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アカネちゃんはどこにでもいる
物語のカギとなる新条アカネ。彼女は怪獣を造型し謎の存在”アレクシス・ケリブ”が実体化させ暴れさせる。そして嫌悪する人間を抹殺したあとは人々の記憶を消し街を修復し何事もなかったかのようにリセットさせる…。
その世界の神として君臨していたのです。
アレクシスの傀儡として悪行を働きましたが、真意は自分の都合のよい世界を作るため。パンを潰された腹いせに、ぶつかってきた腹いせに、怪獣の名前を間違えられた腹いせに…。そのどれもが身勝手な理由。たったそれだけでアカネちゃんは怪獣をけしかけて人を殺め街を破壊し、何事もなかったかのように作り変えてしまうのです。
その身勝手さ。あまりにも共感がしにくいキャラクター造型と言えるでしょう。
しかし、その身勝手さこそが現代社会に通じる要素だと考えます。
アカネちゃんは自分の思い通りに出来る世界を作り上げ、アレクシスの力を借りつつも理想の世界を生み出してきました。
皆が自分を好きになる世界を作り、そこで温かく生きていく…。
この世界にはツツジ台以外の街は存在しない。まさに閉塞した世界なのです。
自分の意のままに操れる小さな世界。この閉塞感こそが現実にも立ち込める閉塞した空気を表しているように思えるのです。
現実の世界に立ち込める言いようのない空気感。変化をしているようで変化がない。テレビをつけてもネットの中でもいつものように同じやり取りが繰り広げられていて、一向に何かが変わる気配がない。
政治の世界も、エンターテインメントの世界も変化がなく、賃金は一向に向上しないまま。現実は閉塞感に溢れてしまっているわけなのです。
どうやっても変えられない、ましてや一人の力だけで変化を成し遂げることなど不可能。そう思っている人もいるでしょう。
そんな息が苦しい世界なら何事もなかったかのように破壊して作り直してやればいい…。
そんな過激な思想を思い描いたことはないでしょうか。
アカネちゃんはまさに現代日本の閉塞感を現した存在なのだと思うのです。
ツツジ台という閉じた世界を意のままに操る。理想を完遂させるためなら人を殺める事だっていとわない。行動は過激ですが、現実世界にまとわりつく閉塞そのものをアカネちゃんの行動を通して描いているのです。
身勝手さは「もっと自由になりたい」という若者の叫びであり、何事もないかのように作り変えられ記憶を失い人々は現実世界の無関心の象徴。
彼女の行動は全て現実が抱える問題へと通じるわけなのです。
アカネちゃんは実はアレクシスの傀儡だったという点も現実世界のどうしようもないやるせなさに似ています。
怪獣が出てこなくなっても真なる敵がいるという途方のない戦い。現実の多重階層な搾取構造を表しているのでしょう。
現実世界にもアカネちゃんは存在していると言えるでしょう。
理想の世界が欲しい、自分の思い通りに生きていきたい。そんな事を考えたる人は大いに存在しているはずです。
しかし、アカネちゃんのように意のままに世界を作れるはずもなく、人々は現実を受け入れて生きていくしかない。
閉塞を味わいながらも生き続けていくしかない…。
アカネちゃんは救われたのに、現実は救われない。そんなやるせなさを感じさせる作品なのです。
どこにでもアカネちゃんは存在しています。アカネちゃんは現実で思想と言う形で存在しているのです。
でもアカネちゃんのようになれないのが現実です。
ヒーローアニメと言う名の革命アニメ
そんなアカネちゃんを救い、アレクシスを倒し街を正しい形へと修復する響裕太たちグリッドマン同盟の姿は革命家と捉えることが出来ます。
閉ざされた世界を打破するヒーロー。世界を牛耳る存在を倒すことで人々を正しい道へと誘う…。
これはヒーローアニメの体裁をとった革命アニメなのです。
『SSSS.GRIDMAN』は単純なヒーローアニメではなく、特撮へのオマージュと社会風刺に溢れた作品です。
オリジナルがこれからやってくるデジタル社会の問題を組み込んだように、SSSS.GRIDMANでは現実世界の閉塞感を組み込みました。
閉ざされた世界を打破することは一人では叶わない。しかし、皆が団結すれば成し遂げられるかもしれない。
そんなメッセージが込められているように思えました。
『SSSS.GRIDMAN』は現実を直視させるヒーローアニメなのです。
立ちふさがる壁は巨大でいくつもあるかもしれない、それでも立ち向かう勇気を捨てなければいつかは思いが通じるかもしれない。
SSSS.GRIDMANは前進する大切さを伝えてきているのです。