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『アクアマン』感想 多様性こそが真の王を生む

マン・オブ・スティール』から始まるDC・エクステンデット・ユニバース第6弾『アクアマン』を鑑賞。DC作品でもトップクラスの出来栄えだったと言っていいだろう。

興行収入もDC作品トップになるなど、ヒットした理由も頷ける。

 

ネタバレを含みます。

 

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これまでのDCヒーローは苦悩し葛藤する。それが作品のトーンを暗く、時には陰鬱とも思える重さを映し出してきた。

『マン・オブ・スティール』、『バットマンVSスーパーマン』でもヒーローの苦悩や葛藤が描かれた。

心を描くことはキャラクターを創作物から人間へと近づける要因となるが、DC作品では心に偏重したせいか、肝心の物語がまとまりのない印象を受けることが多かった。

 

何を観客に提示したのかイマイチ汲み取れない作品になることが多かったのだが『アクアマン』は違った。

これは大予算をつぎ込んだB級映画だ。物語の流れはこれまで幾度となく使い古されたものであり、もはや摩耗しているレベルだ。

半海底人のアクアマンが王になる。王道すぎて古臭さを感じるほどだ。

 

 

だが、その開き直りが非常に面白い。

これまでDC作品の多くがドラマを描こうとしたのに対し、本作はコミックの完全映画化に挑んだ。

雑踏としつつも美しい地上の景色とまつで銀河系のように煌びやかに輝く海底王国アトランティスのヴィジュアルが強烈だ。

 

海には様々な生物が存在し絶滅したはずの生物すら存在している。そんな夢に溢れた世界だ。海底人も水で髪の毛が無重力のように浮き立ったり、サメや巨大な海洋生物を馬のように操るなど、見たことのない映像で溢れている。

地球なのに異世界が存在しているのだ。

 

まさにコミックのノリだ。変に現実世界に近づけるのではなく、コミック的外観を保っているにも拘わらずすんなりと受け入れられてしまう。

作品のトーンが全体を通し暗くなり過ぎず、逆に異様に明るすぎることもない絶妙なバランスを保持しているおかげで、どんな事が起きても受け入れられる下地を作ってしまったのだ。

 

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そんなヴィジュアル、演出面のコミック的な楽しさもさることながら、今回はキャラクターが愛おしい。

これまでは悩みすぎた挙句にウジウジとした印象を受けることも多かったDCヒーローだったが、アクアマンは吹っ切れている。

 

海底人と地上人の間に生まれ魚と会話し水中を高速で泳ぐ。

時には海賊に襲われた潜水艦を助けるなど、自身の力を人々のために使用している。

 

彼は悩まないのだ。この力の意味は、己の存在とは。スーパーマンがやってきたような苦悩は一切なく、最初からフルスロットルで駆け抜ける。

銃弾を受けてもへっちゃらなその肉体。海賊と戦う時もニヤリと笑うなど強すぎる故にコメディになる存在になっている。

 

アクアマンはコミックから飛び出してきた存在そのものだ。非常に面白く、父との強固な絆も描いているのに人間味も強めている。

アクアマンが持つ唯一の悩みは自分を生んだせいで母が殺されたということだ。

 

地上との禁断の恋の挙句に子を産み、それがアトランティスの逆鱗に触れてしまう。

そのせいで母は海底で処刑されてしまった。アクアマンは唯一それを悔やんでいるが、それで作品全体を引っ張ることはない。

悩んでいるが帰ってこない。諦観のような感情を感じさせるが、それが観客の涙を誘うこともない。

 

アクアマンは過去と今を割り切っているのだ。

だが、そんなアクアマンの前に敵が立ちはだかる。

アトランティスの王『オーム』が地上に戦争を仕掛けるというのだ。

 

オームはアクアマンの異父兄弟であり、彼らは王座をかけて戦い始める。

オームが地上に攻めるのは地上人が長年にわたり海を汚し続けたからだ。

ゴミを垂れ流し、魚を捕獲し、ヘドロを流し込む。そんな蛮行に激怒し、かつて自分たちが住んでいた地上を再び手中に収めようと画策している。

 

海底王国アトランティスは保守的な世界だ。

王家の婚姻は政略結婚であり、そこに当事者の意志はない。アクアマンの母はそれを嫌悪したため地上へと逃げてきた。

しかし、保守的な海底人はそれを認めず連れ帰り政略結婚させオームを産んだのちに処刑してしまう。

 

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本作のヒロイン『メラ』もオームのいいなづけだ。彼女はオームの蛮行に激怒しアクアマンと行動を共にする。

アクアマンこそが真の王に相応しい器であると信じているからだ。

地上と海底の間に生まれた特殊な存在。二つの世界を繋げ融和に導く可能性を秘めている。

人々のために自分の力を使うなど英雄的行動を見せた彼こそ王に相応しいと考えている。

 

そう、本作のテーマは多様性なのだ。

保守的で自由がないアトランティスと多様な血が流れるアクアマン。

コミックでのアクアマンは金髪の白人的ヴィジュアルで描かれているが、実写で抜擢された『ジェイソン・モモア』はハワイ出身でハワイ先住民族、ドイツ系やアメリカ先住民民族の血を引いている。

 

 

劇中のアクアマン同様、俳優の彼にも多様な血が流れているのだ。

そんなジェイソン・モモアにアクアマンを抜擢したのも多様性を示すためだろう。

 

多様な存在、考えを容認しつつも人々を気づつける考動だけは許さない。

これは多様な血が流れ多様な視点から物事を見ることが出来る存在だからこそ成しえる。

 

オームのように純血に拘り、地上を認めない存在とは大きく異なる。

アクアマンは地上と海底の素晴らしさを知っている。だからこそ守らねばならないと思った。

 

本作の監督がマレーシア生まれの中国系でオーストラリアで育った『ジェームズ・ワン』であることも多様性を示す作品になった理由かもしれない。

 

監督、主演が多様性に満ちた存在だ。

王たるものは多様を容認する必要がある。そうしなければ不幸になる人が出てくるからだ。

 

ヴィジュアル、キャラクターはコミックから飛び出してきたかのようだが、作品自体は大まじめ。

アクションあり、冒険ありとまさにエンタメ尽くしだが、テーマは多様性と言う昨今の世界情勢を反映したものだ。

 

真の王とはなにか。世界中の指導者たちを風刺するヒーロー映画と言えるだろう。

非常に楽しく、そして奥深い作品だ。

 

ただ残念だと感じた点はブラックマンタの存在を持て余していることだ。

今回は出さなくてもよかったと感じる。

 

もう一点。アトランティスが地上に戦争を仕掛けると宣言したが、仮にそうなったとしても『ジャスティス・リーグ』が存在しているため彼らが何とかしてくれると思ってしまい、少しだけ気持ちが冷めてしまった…。