『羊と鋼の森』感想 静寂と繊細さが伸びやかな緊張感を生む
これが繊細な映像と演技で心を優しく包み込むような作品でした。
日本でもこんな芸術的な作品が作られるんだと感嘆させられた一作です。
作品紹介・あらすじ
高校生の外村は学校を訪れたピアノ調律師板鳥に惹かれピアノ調律師を目指す。
調律学校を卒業し地元の音楽店に就職した外村は挫折しながら成長していく。
主演は山崎賢人。上白石萌音と上白石萌歌が劇中でも実の姉妹を演じている。共演は三浦友和、鈴木亮平。
伸びやかな緊張感に包まれた作品
上映時間が二時間を超えている作品ですが、その長さはほとんど感じさせません。
日本映画にありがちな説明セリフもほとんどなく役者の演技と映像、そして音で全てを説明しています。
無駄な説明がなくても観客は理解してくれるだろうと観客を信じてくれている作品です。無駄な点が一切なくBGMも少なめという珍しい作品。
静寂が支配しており、劇場内で息をする音すらも気になるほど。
役者陣の演技も繊細で叫ぶこともなければ感情を大げさに表現することもなく、ひたすらに繊細な演技を見せてくれます。その演技力が物語と見事にシンクロしていて説得力を増しているんですよね。
静寂ながらも音楽は壮大。音楽で人物の心境を描いているんですよ。伸びやかな音が好きな人もいれば固い音が好きな人もいる。人によって音の嗜好は様々。音を調律することでその人がどんな人間なのかを見事に表現しているのです。
調律の場面も緊張感に満ちています。しかし肩がこるような緊張感ではなくどこか伸びやかさを感じるゆったりとした緊張感。張り詰めた緊張感ではありませんが音の表現が繊細でやはり緊張感に包まれている事には変わりありません。
この作品の凄いところはとにかく音が語るという点です。見せ場であってもセリフはなく、とことんピアノの旋律で感情や心境を表現することに終始しています。
音がどれほど素晴らしいのか。それをとことんまで突き詰めていて、無駄なセリフが一切ないのです。
BGMもセリフも少なく、劇中の音だけで語る。音楽と言う物をひたすら信じているのです。
無駄が一切感じられない作品。音楽の持つ力と観客の理解力をとことんまで信じ切っているからこそ、BGMもセリフも多用しない見事な構成を生んでいるんでしょう。
見ていくうちにピアノの音の変化が理解できていくようになり、その音が持つ感情と言う物までを理解していけるようになります。
実体のない音と言う物をいつの間にか理解し、信じてしまう。音楽の持つ偉大な力を感じさせてくれる作品です。
伸びやかな緊張感が心地よく観客を包み込んでくれて音の世界へ浸ることができました。これほど心地の良い緊張感を持つ作品が生まれるとは…。驚愕してしまいました。
まさかこれほどまでに静寂で繊細な映画を観られるとは思っていませんでした。まさに芸術と呼べる作品。音が重要な作品なので是非劇場で見てほしいです。