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『返校』レビュー、歴史の暗部を抉り出す台湾製傑作ホラーゲーム

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『返校(Detention)』をプレイした。
同じアジア圏なのに日本には見られない独特のヴィジュアルワークや簡単操作性からは思いつかないほどの闇を抱えた物語が魅力の台湾発ホラーゲーム。

台湾の闇ともいえる白色テロ時代を学べる傑作ホラーゲームをレビューしていく。

一部ネタバレがあります。

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魅惑的で精神にくる演出

『返校』は日本が台湾から撤退し国民党が統治した時代に白色テロと呼ばれる暗黒期を舞台にしている。

主人公の女生徒レイと男子生徒のウェイが協力して閉ざされた学校からの脱出を目指す。その最中にレイは自身の失われた記憶の断片を取り戻してゆくというストーリー展開だ。
操作も非常に簡単でPC版ならマウスのクリックだけ移動や謎解きが出来る。

ホラーの演出は精神をキリキリと蝕むような恐怖感がある。ここは同じアジア圏ということもあるのだろうか。日本のホラーゲームの雰囲気にかなり似ている物の、時には強烈な行動を要求されることもあるので注意が必要だ。もちろん流血描写も存在しているのでプレイ時には心構えが必要になることがある。

登場する怨霊たちは除霊などで退治することは出来ず、息をひそめてやり過ごすしかなくじわじわと全身から脂汗が噴き出してくる緊張感に包まれている。

そして独特な美術も精神を更に蝕む。
2D横スクロールの本作。
ビジュアルは全体的に魅惑的なものを感じるのだが、生気を感じさせない冷たい校舎とキャラクター達。その圧倒的なビジュアルはもはやホラーの枠を超えた芸術的な領域に達しているとすら感じる。
横スクロールが演劇的な臨場感を与えており、これが日本のホラーゲームとはより違ったものだと強く印象付けている。

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ビジュアルを体感するだけでもこの作品はプレイする価値があるだろう。

謎解きもそれほど難しくない良い塩梅。頭を少しだけ捻る必要がある部分や記憶力を試される部分があり楽しめるシステムになっている。

日本人が知らない台湾史の暗部

物語は単純な謎解きから始まり、いつしか台湾の複雑な政治情勢が絡んだ物語へと変貌してゆく。

台湾には複雑な歴史がある。日本統治時代、そして中華民国時代。現代の台湾は中華民国とも呼ばれており、日本敗戦後の中国大陸での国共内戦に敗れた中国国民党が台湾に逃れて建国?されたのが中華民国こと台湾だ。
1949年から台湾では戒厳令が布告され1987年までの38年間にわたって戒厳令が続いた。20世紀をとおして世界最長の戒厳期間になるらしい。

戒厳令下では禁書が存在しており、学校の読書会ではその禁書が読まれていた。
禁書を読んだだけで共産主義思想を持つと疑われ強制連行されるという時代が台湾白色テロと呼ばれる時代。
台湾は東西冷戦下では西側に属する国とされていたが、実際には戒厳令で自由が抑圧されていたようだ。
中国と戦うためと言う理由で思想弾圧が行われていたらしい。

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物語はその白色テロが大きく絡んでくる。戒厳令下の台湾で何が起きていたのか、そしてレイが何をしてしまったのか…。それが明るみになっていくとプレイヤーの気分がどんどんと沈んでゆくのだ。

日本に最も近い隣国台湾。台湾は日本が統治した時代もあったが日本撤退後の台湾で何があったのか、日本人は全く知らないだろう。

時折飛び出す皮肉めいたセリフも台湾の闇と言う物をより深くえぐり出している。

考察『返校』の意味とは(ネタバレあり)

この作品には二つのエンディングが存在している。
一つはレイ、もう一つはウェイを描いている。

返校とは文字通り学校に変えるという意味らしい。ウェイのエンディングを見ることが出来ればその意味が分かるだろう。

物語の第四章で「あなたは私」という言葉を見つけることが出来れば学校に帰ることが出来る。

傑作中の傑作

単純なホラーの枠を超え、台湾の歴史に深く鋭く切り込み知ることのなかった台湾の闇を嫌と言うほどに見せつけられる。

恐怖の演出も抜群で時には椅子から飛び上がりそうになることもあるが、それを超えるほどの深い物語性が存在している。

演出やビジュアルも高い完成度でプレイヤーをジワリと蝕みつつも、最後には悲しみ与えてくる。

日本語の翻訳も秀逸でミスらしい部分は一切なくストレスなくプレイできる。是非ともプレイしてほしい傑作ホラーゲームだ。台湾の歴史を一緒に知ってほしい。