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『リズと青い鳥』感想 京アニの暴挙が描く青春の静寂さと繊細さ

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京アニがまたしてもとんでもない作品を送り出してきた。
響け!ユーフォニアム』シリーズの続編として生み出された『リズと青い鳥』。90分があっという間に感じるとてつもない静寂さと繊細さに満ちた作品だった。

 

※ネタバレを含んでいます。 

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あらすじ

TVアニメ『響け!ユーフォニアム』から一年後、三年生の鎧塚みぞれと傘木希美を軸とした青春ストーリーを描いた物語。

 

架空の童話『リズと青い鳥』と重なり合う二人の少女を描いた作品。

 

この作品はシリーズの予備知識がほぼ不要。シリーズを見ていなくともこの映画単体だけで楽しめる内容になっている。

声優陣もテレビシリーズから続投し本田望結が本作で一人二役を演じることでも話題に。

あまりにも静かで繊細

テレビシリーズがどことなくスポ根的な熱を帯びているのに対して、本作は静寂に包まれてる。

 

大きなイベントもなければ感情の爆発もない。しかし、動作の一つ一つに意味があり、一瞬たりとも目が離せない。キャラクターをただの記号ではなくしっかりとして「人」として表現しており、表情の一つ、動きの一つで内面をしっかりと観客に提示してくるのだ。

 

この作品はあまりにも繊細な表現で支配されている。無意味な場面は一切なく90分全てのシーンに意味が込められている。

だからこそ見る人によっては退屈と感じるかもしれない。

なぜなら平凡な青春の日常を描いているだけなのだ。それ以上の物は何もない。青春の一ページを静かに切り取っただけの作品だからだ。

 

それなのに異様に面白い。緊張感に満ちた90分。この作品はあまりにも繊細すぎる故に言葉で表すよりも見てもらったほうがはるかに速いと思う。静かで繊細。アニメーションの表現を極限まで突き詰めた究極の作品と言える。もはや実写を超えた表現力に満ちている。

圧倒的な情報量に満ちた作品と言える。

 

音での感情表現

本作は架空の童話『リズと青い鳥』が鍵となる。

 

リズと青い鳥』はリズという少女が一人の少女を助ける。二人は仲良くなりいつも一緒に過ごす。しかし少女は実は青い鳥で最後にはリズの元を去ってしまう。というお話だ。

 

そんな物語にみぞれと希美は自分を重ね合わせていく。どことなく自分たちは似ているなと。

 

みぞれは自分がリズで希美が青い鳥だと考えていた。

自分も相手が大好きで、相手も自分が大好きでだからこそ自分の思い通りになってほしい。でも思い通りにならないことがある。

言葉にしたいのに出来ないもどかしさ。伝えたい切実な思いが込められているのにそれを伝えることが出来ない。希美がどこかへ消えてしまうのではないのかと言う不安に駆られ演奏が上手くできない。

 

だがみぞれは気づいてしまう。実際には自分が青い鳥でリズが希美なのだと。それに気づいた瞬間にみぞれの感情は静かに爆発する。

 

今まで希美を意識するあまり上手くいかなかった演奏も完璧なまでにこなせるようになった。

この感情の爆発も静寂に包まれている。感情を音楽で表現することでキャラの心理を観客に見せつけてきたのだ。

 

とてつもない演出だ。

これまでの演奏は確かに上手くいっていなかった。それは素人でもわかるほどだ。アニメーションなのに音色の違いを的確に表現しており、感情を音で表現することに完全に成功している。

 

ミュージカルでも無いのに台詞もなく音色だけで感情を表現できるとは思っても見なかった。素晴らしい演出に完全にやられてしまった。

 

これはある種の暴挙

テレビシリーズとは全く異なった雰囲気をあえて突き詰め、実写を超えたと思えるほどの情報量に満ちた究極のアニメーション。90分と言う時間をとことんまで静寂で包み込んだ作品は見たことがない。

 

京都アニメーションは今まで様々な挑戦を行ってきた。ハルヒエンドレスエイトや消失の2時間40分という長尺。聲の形という難しい題材の映画化。様々な挑戦を行ってきた京アニだが今回に限っては「これまでのシリーズは何だったのか?」と問いかけてくるかのような静寂に包まれている。

 

これほどまでに元のテレビシリーズと色を正反対にしたのはある種の暴挙と言うしかない。

何がどうなればこれほどまでに繊細で静かな作品が作れるのか、理解が及ばないほどだ。

 

もはやこれは観客を「試す」作品と言うべきだろう。この作品から何を見出すのか、山田尚子監督は問いかけてきているように思えた。

とんでもない演出力で満ち溢れている。山田尚子監督は凄まじい力量を持っているのだと改めて思い知った。

 

90分だからこそ生まれた傑作

この作品は90分という上映時間だ。大作映画になると二時間越えが当たり前となってしまった昨今の映画事情を考えれば少し短さを感じるほどだろう。しかし、この90分が絶妙でこれ以上長すぎたら無駄が現れて傑作にはなりえなかっただろう。逆に短すぎると表現が上手くできずによくわからない内容になってしまったはずだ。

 

90分だからこそこの傑作が誕生したと言える。

あまりにも素晴らしい静寂と繊細さに包まれた見事な青春映画。

 

見た後は好きな人に想いを伝えたくなる。そんな素敵な作品だ。